シチルにて〜お萩戦争〜 後編

語り手エリー

兵士達が野営地に帰り着いた。
馬を戻して天幕に戻ろうとする。と、天幕の中に誰かの気配がある。
敵の密偵の可能性を考え、そっと覗いてみると・・・・・・・・・・・・・・


天幕の中に居たのはパンドラだった。
兵士達を撒いた後こっそり戻って来ていたらしい。
パンドラは戦場でも先ずしない真剣な目で計量器具と向かい合っていた。
全員分のお萩を「数」ではなく、「重量」で分けていた。
恐ろしいまでの集中力で極めて精密にお萩の山を振り分けていった。

声を掛ける事が出来ずに立ち竦み続ける兵士達。
やがて、作業が終わったらしくパンドラが彼らの方を振り向いた。
「私に出来る限り均等に分けてあります。
適当に順番を決めて選んで下さい。私は最後に残ったのを貰います。」

暫しの沈黙

「そのぅ、いいんですか? 一度は逃げたのに」
「それについてはすいませんでした。(ぺこり)持ち逃げしたくなってつい」
「もう、しないですよね? 選んだ後いきなりまた持ち逃げしたり・・・・・・・」
「そう言う事は言わないで下さい。またしたくなってしまうので
今だってやっと自制しているんですから」
苦笑を浮かべるパンドラ、どうやら本当にかろうじて自制してるだけらしい。
「いや、いいですよ。またやっても、今度は逃がしませんから」
兵士の一人がふざけて返す。本当にやりかねないと知った上での挑発。
確かにこの状況ではパンドラとて容易には逃げられはしないだろう。
一度分けたお萩をまとめ直して担ぐまでにまず取り押さえられる。
更には暫し前まで、馬と張り合って草原中を逃げ回っていたのだ。
体力はもう限界に近いだろう。それに気付いた他の兵士達も悪ノリする。
「今度こそは負けませんよ、絶対」「雪辱の機会ですね」・・・・・etc
それに対してパンドラは微笑みを浮かべて一言
「じゃあ、やりますか?」ふざけていた兵士達が表情を引き締める。


兵士達もパンドラのおよその性格は知っている。
無茶をする事も多いが、全く根拠の無い行動はまずしない。
無茶をするならその事に何らかの意味がある。
つまりは何らかの形での勝算があるのだろう。


「将軍、何を考えているのかは知りませんが、勝ち目はないですよ」
「何をするつもりなのかは知りませんが、悪あがきは止めて下さい。」
一部の兵士達が制止する。
「勝てますよ。例えば、このお萩全てを今すぐ食べ尽くすとか」

其処で兵士達は思い出した。パンドラが将軍として就任する前の話。
以前に結城将軍が将軍達にお萩を振る舞った事があった。
その時その場にいたパンドラはそのお萩を気に入り
追加分(おかわり)として出されたお萩を
全てくすねて口に放り込むという暴挙を実行してのけたのだ。
さすがにその後喉に詰まらせて窒息しかけたが。

「ま・・・また、窒息するだけですよ。止めましょうよ」
「一気に全部放り込まなければ窒息はしないよ。
分けて食べても取り押さえられる前にかなり食べられるはずだけど?」
「それでも全部は無理でしょう。分が悪い賭ですよ?」
「じゃあ、分を良くしましょうか?」

そう言ってパンドラは懐から怪しい筒を取り出す。

「この中には強力な睡眠薬の成分を濃縮した粉が入っています。
これを全てお萩に掛けたらどうなると思いますか?
小さじ一杯でほぼ永眠確定の劇薬ですよ。」

パンドラは毒等に強い耐性がある。睡眠薬入りのお萩も平気だろう。

兵士達もその事を知っていた。
「・・・・・・・・・本気ですか?」「いんや、冗談だけど」
そう言って筒をしまう。
「それに筒の中身はただの胃薬ですよ。」
沈黙する兵士達、やがてパンドラタコ殴り大会が始まった。

(2002.10.05)


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