[4]読み返しの意義 翌週の月曜日。眼の下に隈を作った男達4人が会議室で顔を付き合わせていた。 社長:では、企画会議を始める。とりあえず、今度の週末は御苦労だった。 総務:(欠伸を噛み殺して)……はい。 社長:前回も述べたが、この会議の目的は新しく発表するパソコンゲームの企画を立てることだ。その参考資料として、徹夜で『ONE』をプレーしてもらったのだが、どうだったかね? 企画:もう1回最初からやり直したのですが……いつやっても感動できましたね。 営業:そうですね。私も全キャラクリアしたのですが、これは凄い作品でしたね。 社長:ふむ、なるほど……。して、総務部長は? 総務:私も全員クリアしたのですが……あまり他人に勧める気にはなれませんでしたな。そういう社長はいかがでしたか? 社長:5人までしかクリアしていない。それに、男性の隠しキャラ── 営業:「氷上シュン」のことですか? 社長:そう、彼の姿はまだ見ていないのだよ。 総務:なるほど……。それでは、そろそろ本題に入りませぬか?(議論を早く終わらせて寝たいし) 社長:そうだな。……では、まず最初に、技術的な面から『ONE』を分析してみよう。実際にプレーした感想はどうだったかね? 総務:操作性の面では概ね合格点の範囲でした。バグは存在しますが、インターネットやユーザーサポートで差分ファイルを入手すれば修復できますから問題無いでしょう。Windows NTではプレーできないようですが、これは仕様ですので止むを得ません。NTはゲーム向けOSではありません(*30)し。しかし、2ヵ所ほど問題点が存在しました。 営業:ふむふむ(メモを取っている)。 総務:1つ目は誤字・脱字。「意外」を「以外」としてしまうなど、変換ミスが手付かずのまま残されていました。『ONE』はテキストが命である作品なので、もう少し注意してもらっても良いと思いました。2つ目は読み返し機能の欠落。無くても別に構わない……と言えばそれまでですが、あったほうが良かったと思います。 企画:ちょっと待って下さい。誤字・脱字については総務部長のお言葉が全面的に正しいと思いますが、読み返し機能の欠落については異議を申し上げたいです。 社長:企画部長の意見は? 企画:私は読み返し機能を作らなかったことに、逆に製作者側の「真剣な態度」を読み取れると感じたのです。読み返しを禁止することにより、読者──この作品の場合はプレーヤーにですが、「作品を真剣な目で読んでもらう」(*31)という態度を求めたのではないか……そう考えているのです。 総務:それはちょっと違うのではありませんか? 企画:どういう意味です? 総務:確かに、そのように真摯な態度で作品と向かい合うのも結構だと思います。しかし、プレーヤーの全てが企画部長のような立派な方だとは限らないでしょう? メッセージを繰り返して読むことによって、作品を必死になって理解しようとするプレーヤーがいたとしても良いと思います。そういった人の為に、読み返し機能を用意させたとしても決して無駄ではないと思います。使いたくなければ、使用を自主規制すれば良いだけのことですから。 企画:しかし──。 社長:まあまあ抑えて。始まってから早速熱くなることも無いだろうに。営業部長の意見はどうかね? 営業:読み返し機能ですか? あったら便利なのは確かですね。それに、読み返し機能などが搭載されていたら、雑誌等での評判も上がります。昨今のパソコンゲーム業界事情を鑑みれば、「ADVで読み返し機能は必須」になりつつありますから、読み返し機能が無いと、そこが「ユーザーにとって不便だ」という反感を招くきっかけになります。『ONE』が発売された当時、読み返し機能は必須ではありませんでした。しかし、存在していたらプラスの評判になっていたと思います。それ以外の点については、総務部長の御意見に同意致します。 総務:(無言で頷いている) 営業:逆に、こういった流れを逆手にとって、読み返し機能の搭載を取り止め、搭載しなかった理由を雑誌やインターネットで発表し注目を集める……という方法も良いと思います。それはそれで物の作り方としては興味深い方法ですし、実践されているところを見てみたい気はします。しかし、『ONE』の場合、私はそのような話を見つけることができませんでした。ひょっしたらあったのかもしれませんが、それが話題になっていないところを見ると、本人達が意図した……というよりも、単に「入れ忘れた」と考えるほうが自然でしょう。 総務:それか「宣伝していない」もしくは「宣伝が不十分だった」……。 営業:でしょうね。私が見たところでは、この会社のスタッフは、読み返し機能に端から注意を払っていなかったのではないかと思います。後に『ONE』のスタッフがKeyで発表した作品『AIR』(*32)では、発売直前になって慌てて読み返し機能が搭載されたという逸話もあるほどです。しかも、同業他社の製品と比較したらあまり使い勝手が良くありません(*33)。 社長:なんだかなあ……。 営業:これ以上は申し上げませんが、私としては「読み返し機能はあったほうが良かった」とだけ申し上げましょう。プレー環境や操作性を改善して、販売戦略上、損になることは1つもありませんからね。それに、操作性などプレーヤーとゲームを繋ぐ部分に改良の余地があるのならば、できる限り改良しておくのが、「商品」としてゲームを作る人間の責務だと思いますが……。 |
[5]名曲と名作と 社長:続いて、音楽はどうだったかね? 総務:これは素直に賞賛できますね。曲そのものも凄いのですが、その使い方に細心の注意が払われているのがひしひしと分かりました。 営業:そうですね。コンピュータゲームで良く言われる定理「出来の良いゲームは音楽が良い」が今回も確認されました。 企画:あれ? それは逆なのでは? 営業:「音楽が良いゲームは良いゲーム」ですか? それは間違っています。『FINAL FANTASY VIII』(*34)を反証として例示すればそれで十分でしょう。 社長:販売戦略における音楽の位置付けとはどのようなものかね? 営業:BGMがゲームの良し悪しと売れ行きを左右する要素の1つであることは論議する必要も無いでしょう。それから、ゲームのサウンドトラックというものは、数あるゲーム関連商品の中で最もポピュラーであり、最も売れやすい商品です。女性キャラがでかでかと描かれた下敷きやタオルとは異なり、他人に見せたり聞かせたりしても恥ずかしくないですからね。アレンジバージョンも同様でしょう。ただ……。 社長:ただ? 営業:今日のゲーム業界で、サウンドトラックを発売してヒットになるためには、物凄く優秀な作曲家を用意せねばなりません。幸運なことに、『ONE』では非常に優秀な作曲家集団に恵まれましたが、そういうことは滅多に起こりません。 企画:新しくゲームを作る我が社の場合、この問題は非常に頭が痛いのです。外部から作曲家を招かねばなりませんから。 社長:スクウェアの作曲家でも引っこ抜くかね? 例えば伊藤賢治(*35)氏とか(^^;)。 総務:それはナイスアイデアですな(^^;)。……それはそうと、営業部長。 営業:はい? 総務:『ONE』のオープニングが静かだったことに対して「惜しいことをした」と仰いましたね、昨日。あれはどういう意図に基いた発言だったのでしょう? 営業:ああ、あれですか。2つ理由がありました。1つは純粋に「曲を聴いてみたかった」というもの。ゲーム中の音楽が優れていることは言うまでもありませんが、それに劣らぬ名曲が生まれていたのではないか、と思ったんです。でも、この理由は、後から考えたもので、本当の理由はもう1つのほうだったんです。 社長:? 営業:もう1つの理由──最初に考えた理由は、関連商品を販売する時の「持ち駒」が増える可能性があったことです。オープニングテーマ曲を「曲」ではなく「歌」にした場合、それだけで追加の売上が期待できますから。 社長:基本はCDシングルだな。 営業:はい。後は、カラオケボックスという要素も見逃せません。『AIR』では、ゲームで使われた歌が実際にカラオケボックスに入れられています(*36)。 総務:それにしても、貪欲ですね。 営業:まあ、これは純粋にゲームを「商売の道具」として見た場合の意見ですから。多分、『ONE』のクリエイター達はそこまでする気は無かったのでしょう。 企画:ええ。予算が足りなかっただけなのかもしれませんが、『ONE』という作品全体の演出を考慮して、「そこまでする必要は無い」と判断したのでしょう。その判断が適切だったのかどうかは個人によって考え方の差が出るところでしょうが、他の点と比較して批判の声が多く存在していたわけではないので、オープニング曲は用意しなくても正解だったのでしょう。 総務:おそらく。 |
[6]18禁ゲームにおける声優の使い道 社長:次に訊ねるが、CVは必要だったと思うかね? 総務:CV──声優による演技ですか? 社長:ああ。 部長3人:(一斉に)不要です。 社長:……返事が早いな。どうしてそう考えた? 総務:私が考えた理由は、多分予算が足りなかったからじゃないかという点です。無名の声優さんを使うにしても、それなりに金は掛かります。だからと言って、Tacticsの女性社員を特訓させるわけにも参りません(^^;)。それに、音楽をCD-DA音源で鳴らそうと考えていたとなれば、音声は全てWAVファイルということになります。でも、確かWAVファイルは相当容量を食ったはずです。BGMをMIDI音源にするならともかく、CD-DA音源とWAVファイルを併せて使うとなれば、音声ファイルを圧縮するプログラムを用意するか、CD2枚組で発売ということになるはずです。1枚目をインストールファイルにして、ここに音声ファイルを含むゲームのデータを全て放り込み、2枚目の音楽を聞きながらゲームをプレーするという感じになりますかね。 営業:そうです。でも、こうなると製造コストが当然上がってしまいます。だから、私も声優起用は行わなくて正解だったと思っているんです。 社長:企画部長の意見は? 企画:金が足りなかったというのが直接的な理由かもしれません。しかし、金があったとしても、『ONE』のスタッフは声優起用に踏み切らなかったのではないかと思いますね。 社長:どうしてかね? 昨今の声優ブームに便乗すれば良いのでは── 企画:(社長の言葉を手で制する)まず第1に、『ONE』というゲームがテキストを目で読ませることを主体としたゲームだった点を考えましょう。メッセージ表示速度なども、「目で読ませる」ことのみを前提に計算して作られていたはずです。それに声を乗せて自分達の作った演出が破壊されてはたまったものではない、とスタッフが考えたのではないでしょうか。続いて第2に、「声なんて要らない」と考えるユーザーは意外と多いこと。 営業:それはありますね。自分だけのキャラクターイメージが声によって壊されることを嫌う人間や、音声が入ることによってゲームが重たくなることを嫌う人間は、決して少なくありません。 企画:そして第3に、18禁ソフトにおけるCVの存在意義というものを考慮しなければなりません。露骨な表現になりますが、18禁ゲームでCVを搭載する理由って、「18禁シーン中の女性の悲鳴・喘ぎ声などをプレーヤーに聴かせ、プレーヤーの性欲を掻き立てる為」なんです。 総務:み、身も蓋も無い……。 企画:しかし、これは厳然たる事実です。そして、CVによって性欲を掻き立てようとしても、そのベースとなるCG・セックスシーンの文章がダメだったら、CVを入れるだけ金の無駄なんです。はっきりと申し上げますけど、『ONE』のその手のイラストって、あまり興奮しないんです。文章は陵辱系18禁ゲームと比較すると淡々としていて、プレーヤーの性欲を掻き立てることよりも性行為による「心の絆」みたいなものを描こうとしている節があるんです。そして、CGは言わずもがな(^^;)。 社長:それでは、CVを用意するだけ無駄ではないか。 営業:はい。ついでに申し上げれば、18禁ゲームに起用される女性声優の中に、いわゆる声優ブームの牽引役となるような有名人はほぼ間違い無く加わりません。家庭用ゲーム機に移植する場合やOVAを出す時には事情が異なりますが、原則はこの通りだと考えて頂いて良いでしょう。最近は18禁ゲームに登場する声優さんも半ばアイドル化しつつあるという話も聞きますが、そんな話は1998年当時には大して無かったと思います。となると、社長が仰いました「声優ブームに便乗する」という販売戦略は使えません。名の売れた声優さんを起用しないと、ブームには便乗できませんから。 社長:ふう……まあ、何にしても、『ONE』にCVは無くて良かった、ということだな。 |
[7]「ぷに」 総務:グラフィックについては、営業部長が何か御意見を持っていらっしゃったようですが? 営業:あれはもう慣れました。 企画:おやおや。それは良かったですね。 総務:作品の売りはグラフィックではなくストーリーだと聞いていますから、グラフィックにそこまで注意を向ける必要は無いでしょう。 企画:一旦慣れてしまえば、今度はキャラクターの立ち絵のバリエーションの多さに目が向きますね。キャラクター達が実に生き生きと描かれていましたよ。 総務:私は全く気にならなかったのですが、嫌いな人間は最後まで好きになれないのかもしれません。私の弟がそうでした。 企画:弟? 総務:はい。土曜日の昼間、遊びに来ていたのですが、『ONE』のグラフィックを見て「同人臭い」と漏らしていました。 社長:それはどういう意味かね? 総務:私も意味が分からなかったので弟に問い質してみたら、「イラストが同じに見えて、頭髪の形と色でしか個人識別ができない。それに目が大き過ぎる」と言うのです。後、「少女趣味だ」とも言っていました。 営業:それって……。 総務:彼が言いたいことはそれで大体分かりましたので、それ以上突っ込まないことにしました。 企画:それについて、総務部長の御意見は? 総務:さあ……「こう感じる人間もいるんだな」と思っただけで、それ以上の感慨は何も抱きませんでしたな。 社長:しかし、難しいものだな。 総務:そうですね。イラストに対する評価というものは個人の好みによって変わってしまいますから、我々が「これが良い」と思った人選でも、一部のユーザーには不評だった……ということが本当に頻繁に起こります。家庭用ゲーム機のソフトでも、似たような話はございましたよね? 営業:ええ。例えば『ラングリッサー』シリーズ(*37)とか『FINAL FANTASY VII』(*38)とか。 企画:ファンが聞いたら怒りますよ、それ(--;)。 社長:……ところで、ちょっと話を変えたいのだが、良いかね? 企画:はい、何でしょうか? 社長:まず1つ目。背景のほうなのだが……冬なのに木々が青々としていたのだが、あれはどうにかならなかったのかね? 営業:……社長、ひょっとして北国の出身ですか? 社長:まあ、そうだな。高校卒業までずっと札幌で暮らしていたのだが……。 営業:やはりそうでしたか。それならば、常緑樹を目にされたことが少ないのでしょうね。九州や四国のような南国でしたら、冬でも常緑樹が青々と茂っている(*39)んです。今の東京だってそうですよ。 社長:では、背景としては間違っていないわけか。 営業:私もそうだと思います。舞台が南日本だったら、と仮定した時の話ですが。 社長:では2つ目。所々に登場する真っ白と真っ黒の画面なのだが……あれは予算でも足りなかったのかね? 企画:いや。それは無いと思います。白または黒の淡色に塗り潰されていた画面は全て回想シーンでした。ですから、「謎の少女が登場する1つを除き、回想シーンは全て単色にしてしまおう」という、単純な演出上の理由でもあったんじゃないでしょうか。 会議室に暫し訪れる沈黙。 社長:……さて、やはりグラフィックは綺麗なほうが良いのかね? 営業:それは当然です。『ONE』の場合、癖のあるキャラクター原画と、一部手抜き個所が見られた背景・イベントグラフィックが問題点として指摘される一方、キャラクターの立ち絵が高く評価されているという、2つの側面を有しています。今日では、原画を担当した樋上いたる氏のイラストも広く人口に膾炙していますが、『ONE』が発売された当時は知名度も低かったですから、「違和感がある」等の声は多数上がっていたようです。もっとも、イラスト及びCG技術のほうは、『Kanon』(*40)、『AIR』と時代を経る毎に改善されています。現に、『Kanon』『AIR』では「絵が下手」という趣旨の批判の声はめっきり少なくなっています。 企画:イラストやCGが『ONE』の売れ行き等に与えた影響は? 営業:イラストとCGの2つに分離して話を進めたいと思います。よろしいですか? 社長:ああ。 営業:樋上いたる氏のイラストですが、こちらについては「個人の好み」でしか判断ができない問題です。だから、氏のイラストが気に入った人間は評価し、気に入らなかった人間は批判する……ということになるわけです。氏のイラストはいわゆる「ぷに」絵(*41)に分類されることが多いのですが、このタイプのイラストが嫌いな人間は確かに存在します。大好きな人間も多く、その人達が『ONE』以降の一連の作品群に対する有力なファン層の一部を作り上げていくのですが……。 総務:続いて、CGについては? 営業:これは明らかにマイナスの影響のほうが強いと思われます。『ONE』を発売した時点では、「イラストに違和感を感じた」「背景が綺麗ではない」などグラフィックの稚拙さを理由に、最初は購入を手控えたユーザーが相当数存在したのです。ゲームの画面を判断基準にしてあの作品を買ったユーザーがいたとしても、彼らの多くはCGそのものよりも樋上氏のイラストを目当てにしたんじゃないでしょうか。 企画:しかし、『ONE』のセールスポイントは脚本── 営業:(企画部長の言葉を手で遮って)今はCGに話を限らせて下さい。時間が経って口コミで『ONE』の評判が広がり、後に『Kanon』や『AIR』が技術面でも高く評価されるようになってからは話は別ですが、『ONE』発売当時に話を限れば、樋上氏やCGスタッフ達が絶賛を浴びていたわけではありません。ヒロイン達の表情の変化が豊かだった点は誉められても良いと思いますが、それを除けば、かなりの批判が存在していたのではないかと思います。それに、ゲーム雑誌やパッケージには、ゲームのテキストではなくイラスト・CGが優先して掲載されてしまいますから、CGやイラスト──特にCGが綺麗でないことはデメリットにしかならないのです。ゲーム記者によるクロスレビューで「感動した」「世界設定が秀逸」と書かれていても、そこを無視してイラストやCGでゲームを選ぶ人間はかなり多いと思いますよ。18禁ゲームならば尚更です。 総務:つまり、脚本・世界設定が売りのソフトでも、発売前はキャラクターとCGを前面に押し出して宣伝するのが大事、というわけですか? 営業:その通りです。そして、イラストやCGは綺麗なほうが望ましいことは言うまでもありません。PlayStationの『ビブリボン』(*42)並みにグラフィックを稚拙にしてしまった場合は、今度はその稚拙さが「売り」になりますが、18禁ゲームではその手法は一切認められません。イラスト・CG以外に発売前の宣伝として有効なのは、BGM担当者の名前(*43)を公開することぐらいでしょう。キャラクターとCG・音楽を無視した宣伝活動が可能なのは、原則として大ヒットの続編に限られます。RPGを日本にもたらした『DRAGON QUEST』(*44)でさえ、第1作発売時には鳥山明(*45)氏がモンスターデザインに関わったことを宣伝材料に使わねばならなかったですし、『FINAL FANTASY』(*46)も天野喜孝(*47)氏をキャラクターデザインに起用して話題作りに役立てた……という経緯がございます。もっとも、最近ではメーカー側がゲームの体験版を積極的に公開しています(*48)ので、ファミコン時代とは事情が異なりますが。 社長:うむむ……。 営業:申し訳ありません。話が長くなってしまいました。 総務:いえいえ、別に構いません。……では、スタッフが『ONE』で樋上氏を起用したのは── 営業:氏が『ONE』開発時にTactics社に在籍し、過去に同社のゲームで原画を担当していた、という以外の理由は無いと思います。『ONE』のプロデューサーもそれで良いと考えたのでしょうね。 社長:イラストレーターを使うのも大変だな。 営業:はい。特に、18禁ゲームでは、どうしても性行為の描写が必要不可欠になりますし、女性キャラクターを前面に押し出した宣伝戦略も不可避になります。よって、イラストレーターの存在価値が家庭用ゲームよりも大きくなりますし、イラストレーターの人選が特に重要になるのです。 総務:我が社にはそのような人材はいなかったはずです。何せ、ビジネスソフトに特化した企業ですからね。 社長:では、これも外部から有名人を招かねばならない、ということか……(溜息)。 |